ヒトは誰しもが幸せになりたいと願っています。
自分にとっての幸せが明確であればそれに向かって突き進めば良いと思いますが、明確ではない人がほとんどだと思います。
今回は、橘玲さんの著書「幸福の資本論」をベースに、幸福とは何か、幸福を掴むためにはどうすればよいのかについて考えていきたいと思います。
(少し長めの記事ですので、お時間ある時にご覧ください)
幸福の3要素
幸福は、経済的自由、自己資本、絆の3つの要素から成り立ち、それぞれ金融資産、人的資本(働くちから)、社会資本(人間関係)の上に存在します。この3要素の合計が一定値を超えていれば幸福を感じることができます。
(*)以降、3つの資本、資産をまとめて「資本」と呼ぶことにします
資本を1つしか持っていないと、何かきっかけでその資本を失い一気に不幸に陥ります。資本を失わないよう工夫すること、複数の資本を持つことで人生の安定度を増すことができます。
日本のサラリーマン
仕事は、幸福の3要素すべてに大きくかかわっています。まずは日本のサラリーマンの特徴について確認していきたいと思います。
メンバーシップ型
日系企業はメンバーシップ型の人事制度となっていて、サラリーマンには組織人として振舞うことと、あらゆる職務に対応することが求められます。人材が不足した場合は、社内から適任者を異動させることで補充します。というのも、日本の場合は正社員の強制解雇は難しいため、中途採用よりも社内異動が優先されるからです。
部署を超えた異動も往々に行われ、サラリーマンは様々な職務を担当します。若手のうちは、自分の適職を見つけるには有効な方法です(デメリットは後述します)。
これに対し、欧米企業はジョブ型の人事制度となっています。人材が不足した場合は、労働市場から人材を採用し、人材が不要または余剰になれば解雇します。他部署への異動はなく、地位や業務の分担が明確に決められています。
ジョブ型では決められた仕事をきちんとこなしているかが評価されるのに対し、メンバーシップ型では上司や部下、同僚の評判が評価に直結します。
ゼネラリスト
仕事はマックジョブとクリエイティブクラスの2つに分けられます。
マックジョブはマニュアル化された仕事で、代表的なものは事務職(バックオフィス)です。達成感は小さい代わりに責任もありません。大金を稼げませんが仕事や人間関係で悩むことはありません。
これに対し、クリエイティブクラスは仕事の価値が時給換算できない仕事のことで、代表的なものは弁護士や医師など高い時給で働くスペシャリストや、俳優やアーティスト、起業家と言ったクリエイターです。
日本のサラリーマンは、メンバーシップ型の人事制度において異なる職務を担当するためゼネラリストと呼ばれることもありますが、その実態はスペシャリストと呼べるほどの知識や技能を持たない中途半端な人材です(能力のあるスペシャリストは正しく評価されないことに愛想をつかして会社を去っていきます)。
ある程度歳を取ってしまうと他の企業で働くこと難しくなり、会社への依存はどんどん高まります。
幸福の要素① 経済的自由
一つ目の幸福の要素は経済的自由です。お金があれば、自分のやりたいことを叶えることができるので、確実に幸福に近づきます。(ただし、年収は800万円、資産は1億円を超えると幸福度はほとんど上昇しないと言われています)
逆に、お金がなく生活に困窮している場合、常にお金のことを考え、悩んでいるため、幸福を感じることはできません。そしてお金を人質に取られ、望まない選択を迫られる可能性もあります。
経済的自由を得るために必要な金融資産は、収入 - 支出 + (投資資産×運用利回り)という式で表されます。
収入を増やす
資産形成に最も影響を与えるのは収入です。
ヒトは、自ら(人的資本)を労働市場に投入し、給料や報酬を得ています。この収入を増やす=人的資本を高めるには、スペシャリストになる、ニッチな市場で勝負する、大企業と取引をするの3つがポイントです。
ヒトには他人よりも優れている部分、言い換えると異なっている部分があります。それを伸ばすことでオンリーワン、つまりスペシャリストになることができます。スペシャリストになれば多くの企業から仕事をもらえ、また高い報酬を得ることができます。
また、激しい競争の中で生き残るために、ライバルが少ない分野を狙いましょう。この自分だけの「ニッチな市場」を見つけることができれば、強力なライバルとの競争を避けつつ共存することができます。ニッチな市場を見つけるポイントは、小さい、複雑、予測不能の3つです。
(サラリーマンにはあまり当てはまりませんが)大きくお金を稼ぐためには、大きな取引を行わなくてはなりません。大きな取引ができるのは大企業です。なるべく大きな企業と取引をするようにしましょう。
また、収入を安定させるためには、自らの力で稼げるようになること、収入源を増やすことが有効です。
支出を減らす
サラリーマンは生涯1億円近い税金を払います。この税金を減らす方法は、社員は自分一人のマイクロ法人を設立し、法人と個人を使い分けることです。中小企業の税制は優遇されていますので、税負担を合法的に減らすことができます。
また、生活費を下げる(倹約する)のは、誰でも今日から始められて、努力すれば必ず効果があります。お金持ちの多くは倹約家であることが知られています。
具体的な倹約のアイディアについてはこちらの記事をご覧ください。
支出を抑えることができれば、生きていくために必要な収入も少なくて済みます。変化が激しいこの世の中では、いつ収入が激減するかは誰にもわかりません。それに備えるためにも支出を増やさないことは人生を安定させるためには重要になります。
運用利回りを高める
投資は短期的にはリスクが大きいですが、長期的には平均値に近づくという特徴があります。つまり、長期投資であれば高い確率で期待通りのリターンを得ることができる、ということです。ちなみに長期投資において最もリスクが小さく、最もリターンが高い資産は株式で、その長期リターンは7%程度と言われています。
日本の大卒サラリーマンの生涯賃金(退職金を含めない)の平均は、男性/2億7,000万円、女性/2億2,000万円です(*1)。共働き夫婦で毎月10%を貯蓄すると退職時には4,900万円になりますが、これを投資に回し(毎月10万円×40年)、年4%で運用したとすると、退職時には1億1,820万円(含み益+6,920万円)になります。つまり、お金持ちの家に生まれなくても、勤勉と倹約、共働きと投資により億万長者になることは十分可能なのです。
資産運用のシミュレーションはこちらから可能です。
http://www.am-one.co.jp/shisankeisei/simulation.html
投資の世界には、「卵は一つの籠に盛るな」ということわざがあります。「卵を1つの籠に盛ると、その籠を落としたときに全部割れてしまう可能性があるが、複数の籠に盛っておけば、そのうち1つの籠を落としても、他の籠に盛られた卵は割れずにすむ」という意味です。つまり、リスクを分散させよという教えです。
今まで積み上げてきた金融資産を一気に失わないよう、一点集中は避け、手堅い投資により人生を安定させましょう。
幸福の要素② 自己実現
幸福の要素の2つ目は、自己実現です。ヒトは人的資本を活かして仕事を行い、仕事を通じて自己実現をします。
働く人の仕事観
働く人の仕事観は、労働とみなす、キャリアとみなす、天職とみなすのいずれかに分類され、一般的にはそれぞれマックジョブ、スペシャリスト、クリエイターに対応しています。
①労働とみなす人(マックジョブ)
仕事を生きるためのお金を稼ぐ手段として捉え、仕事以外の時間を楽しむために働いています。仕事に対してポジティブでもなければ精神的な見返りも求めていません。
②キャリアとみなす人(スペシャリスト)
仕事を自分を成長させるものとして捉え、また多くの収入や社会的ステータスを得るために時間とエネルギーを注ぎ込む人のことです。仕事=人生とまでは考えていません。
③天職とみなす人(クリエイター)
仕事に充実感や社会的意義を見出し、金銭的な見返りや出世のためではなく、楽しいから働いている人のことです。仕事=人生で、生涯現役で働くつもりです。
額面通りに捉えると、マックジョブは仕事を生活のための必要悪とみなすことですから、そこに自己実現はありません。そんなマックジョブでも、仕事に意義を見出し、また仲間意識を持つようになると、従業員のモチベーションは上がり幸福を感じるようになります。ただし、献身的に働いても時間給が上がるわけではないので、いわゆる「やりがい」を搾取されている状態であることには注意が必要です。
本当の自分
ヒトは無意識のうちに、集団の中で同じキャラを選ばないようにしています。本書によると、異性の興味を引くために目立とうとする本能が理由のようです。
進学や就職して新しいコミュニティに入り、今までとは違うキャラになった時、ヒトは”本当の自分じゃない”と感じてしまいます。つまり、本当の自分とは幼い頃の友達グループの役割(キャラ)と考えられます。幼い頃のキャラになれるような仕事をすると、本当の自分について悩むことはなくなります。
幸福の要素③ 絆
社会資本とは、人間関係のことです。家族や親友との付き合いから愛情や友情といった絆を感じることで幸福になることができます。交友関係が広ければ広いほど良いというわけではなく、その関係性が重要です。
幸福な友人と付き合う
ヒトの脳は、無意識のうちに周囲の人々の感情を真似し、吸収します。そのため、人間の感情や幸福は伝染していくのです。
友達は、距離的に近いほど大きな伝染効果を持ちます。とある幸福度の調査では、自宅から1マイル(1.6km)の範囲に住む友人が幸福になると、あなたが幸福を感じる率が25%上昇することがわかっています。実際に、幸福なひとは幸福な隣人と、不幸なひとは不幸な隣人と付き合っているのです。
また、友情は、横一列に並んで一緒に経験をすることで芽生え、同じ空気を共有することで維持できます。そのため、この限られた条件を満たした人としか友達になることはできず、離れ離れになり合わなくなると次第に友情も枯れてゆきます。
一緒にいて楽しい友達と頻繁に会い(できれば近くに住み)、一緒にいて楽しくない友達とは物理的に距離を置くよう意識することで、自分を幸せな状態に保てるようになります。
特定のコミュニティに依存しない
本来サラリーマンは、労働力を提供する代わりに給料を受け取るという単なる雇用契約のはずです。しかし実際には階層構造があり、集団の中での振る舞いが重要で、様々な感情が混在する、極めて政治的な空間が広がっています。
幸福についての研究では、自分の人生を自分の自由に決められることが幸福感に結びつくことがわかっています。しかし、日本のサラリーマンは、新卒でたまたま入社した会社に40年以上も閉じ込められ、その複雑な政治空間において「自由」な人生を送ることはできず、閉鎖的な世界におけるやりがいを強要されています。嫌われることを極端に恐れる日本人は、実は強いつながりのある学校や会社が大嫌いです。
最も不幸になるのは、強いつながりの中に精神的ストレスを与えてくる人がいるときです。人間は、一度だけの強い痛みより、弱い痛みが持続する方が痛みを感じます。いざというときにこの困った人と付き合わない選択ができるよう、特定のコミュニティに依存しない状態でいることが、人生を安定させるために重要です。
働き方としても、職場での面倒な人間関係を避けるためには、個人事業主(または社長)として働くのが手っ取り早い方法です。個人事業主なら、一緒に仕事をする仲間を自分で決めることができます。嫌だと思った人には次から仕事を発注しない、あるいは頼まれてもお断りすれば良いだけです。一気に人間関係の悩みは解消します。
まとめ:幸福な人生の最適戦略
以上をまとめると、幸福のためには次のような戦略を立てればよいことがわかります。
人間というのは不思議なもので、一時的に幸福になったり不幸になったりしても、次第に感情はいつものレベルまで戻っていきます。
あなたも、他人から見れば幸福な状態にもかかわらず、それを感じていないだけなのかもしれません。一度自分を見つめ直し、今持っている「幸福」は何か確認してみてはいかがでしょうか。
(*1) 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計 2020 労働統計加工指標集」
ちなみに、似たような内容で「99.9%は幸せの素人」という本があります。面白そうなのでこちらも読んでみようと思います。
最後までご覧いただき有難うございました。